愛のまなざし

カイの羽ばたき、彼方に波を

推しの虜となり、リアタイ縛りから開放された

推しが出ているTV番組を見て、「もう虜じゃん。」ってクスッと笑った。

 

まだわたしが普通のひとだった頃。

まだ「アイドル=まあ、かっこいいよね。」だった時。

TV番組に映る人がわたしの瞳に映るかどうかなんて、わたしが決めていた。

 

面白そうだったら見る、暇だったら見る。

飽きたらチャンネルを変える、つまんないと思ったら消す。

 

TV番組を見る基準は単純。今その番組を見たいかどうか。

 

そんなわたしでも、出演者目当てで番組を見ることもある。

少し気になっている俳優やアーティストがTV番組に出るとなると、放送日時と放送局を調べ、頭に入れていた。 

 

彼らの出演情報を得たときは「見るぞ~!」と、確かに意気込んでいた。

しかし、いざその時間に別の予定が入ってしまい見れなくなっても、

「まあいいか。」で済ませることができたていた。あっさりしていた。 

 

 

しかし、である。

 

つい最近推しが出ているTV番組を見た。

 

もちろん放送日時、放送局をスマートフォンのカレンダーに記入した。

自分の頭なんて頼りにならない、別の予定が入らぬよう終了時刻まで書き込んだ。

さらには、「放送日に自分の部屋に到着してほしい時刻」までも「予定」としてカレンダーに書き入れていた。

 

この時、私の中では

「やることリスト」に「推しの出ているTV番組を見ること」が追加されていた。

 

 

今回は、予定よりも20分ほど早く自宅に到着した。

とにかく最上の状態で推しを見るために準備を始める。

 

まずは視聴予約が適切に行われているか確認する。

これで電源を切っていても放送時間になれば勝手に番組が始まる。

つぎにTVの前に積んである本を片付ける。

TV画面を遮るものはとにかくベッドに運ばれる。

そして音量をいつもの2倍に設定しておく。

リモコンはいつでも手に取れる位置に置きなおす。

さいごにペンライトを推しの色に灯し、部屋の電気を消す。

 

(準備の時間がない場合は必ず水分補給とトイレは済ませておく。これが一番大切かもしれない。。。)

 

あとは番組開始時間まで暗闇の中で推しを見たい気持ちを高める。

ライブ会場さながら、ペンライトを振り、登場は今か今かと待ち受ける。

 

 

いざ番組が始まると、オープニングに推しが出ていない。

焦る。

 

早く、早く。

少し苛立つ。

 

番組の後半になってようやく推しが映った。

 

この時の感情は、もはやライブで味わったそれと同じだった。

 

隣人もいるのでさすがに悲鳴は出せなかったが。

 

 

推しが画面に映ると喜び、

映らないと悲しみ。

端に小さく映ると指で差し、

アップで映ると画面を掴んだ。

 

完全に虜になった。

推しの虜になった。

 

ふぅ。

満足。

今日も推しがカッコいい。

それが確認できた。

 

こうしてわたしはベッドの上の本を抱え、日常に戻りかけた。

 

 

待てよ、記憶にない。

 

さっきまで

「画面に映る推しを脳裏に焼き付けるゾ!!」

という気持ちで見ていたのに。

 

推しの笑顔とダンスがとにかくすばらしかった、

ということ以外なにも覚えていない!

 

なんてこった。

 

家に到着する時間まで逆算して行動していた今日という日は果たして幸せだったのか…。

そんなことまで考えてしまう。

 

これがコンサートならば、

「推しを生で見れた」という事実だけで幸せな気持ちはそのまま、一夜が明けても変わることはなかった。

 

だが、これはTV番組なのだ。

生ではない。ライブではない。

 

 

…そうか、これはTV番組なのか。

生ではない、ライブでもない、、

 

だったらリアルタイムで見る必要ある??

 

 

ない。

 

じゃあどうすんの??

 

「録画ぁ!!」

 

 

それだッ。

(思わずガッツポーズ)

 

いや~その手があったか。やれやれ。

 

 

わたしは悟る。

「今自分が見たいかどうか」なんて基準にならない。

 

いまここ、で見るべき理由なんてなかった。

自由に番組を見ていたようで実は縛られていた。

 

新たな基準は、

「推しをいつまでも残しておきたいかどうか」

 

言わずもがな、回答は毎回「YES」である。

決定権はわたしにはない。推しが存在するという事実の方である。

まさに革命である。 

 

 

 こうしてわたしは

「リアタイ縛り」から開放され

「録画する」という新たな予定を手にした。

 

さて、これから推しが出る番組の情報を掴んだとき、

なにを書き込むのか楽しみである。

 

アイドル雑誌発売日がびっしり詰まったスマートフォンのカレンダーに。